日記と短歌
by papiko
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短歌1301~(2014年~)
赤ちゃんじゃなくなっちゃったおまえには思いがけない言い分がある


おねえちゃんにならなくていいきみはただ私のかわいい子であればいい


おんぶして私の裾をぎゅっとしておっぱいなしでねんねした夜


執着を奪われきみは成長し忘れることで仕返しをする


本当に話したいのは何なのか分からないまま子供の話題


2歳児の世界はじゆう晴れの日に長靴はいてシャボン玉吹く


楽しくてしがみつきたいことだらけきみの口癖「まだもうちょっと」


ひとりなら見つけなかったかたつむりきみが世界を引っ張ってくる


手作りのワンピース着て行き先はお花畑か雑踏がいい


納得のいかないことや諦めのつかないことを踏みしめ歩く


おりがみとフェルトで作るやわらかいあかるいたのしいふたりの世界


世の中でいちばんこわいものはおばけなるべく長くそうあればいい


まだきみが赤ちゃんならば母さんはまだ赤ちゃんの母さんでいる


約束が夕焼け色に似てきたらそろそろ夏が終わるのだろう


がんばってるんだねという一言が欲しかったのだと言われて気づく


行き止まりひとつもなくてかいじゅうもおばけもいない迷路を描いて


それぞれの事情を察しそれぞれにだんだん距離をひろげて暮らす


ゼンマイでかたかた泳ぐお風呂場の「せかいがみたい」が口癖の亀


まぶしげに私を見上げ「おかあさん飛んでお空にぶつかってみて」


うつむいて歩きたいから雨の日は背丈の低いコスモスが好き


食パンにバターをたっぷり塗りつけるようにあなたへ捧げる時間


向き合って三時のおやつを食べている冬のはじめの陽だまりのなか


叱るのも叱らないのも違う気がするからひとまず待つことにする


屈託の一歩手前のはにかみが君の相づちから覗いてる


もうすぐでお姉ちゃんになる2歳児がむりやり袖を通すベビー服


ひとりっこ最後の夜に母さんとおにぎり仲良くはんぶんこした


これがキスこれが頬擦りこれがハグ今日から愛され続けるきみへ


赤ちゃんの泣き声うるさくないからね抱っこしないでねえお母さん


つま先に小鳥を飼っているきみのクジラが泳ぐ長靴のなか


愛情は無限だけれど一日の上限はある頼む寝てくれ


マジシャンのように注目浴びながらおやつを二枚のお皿に分ける


このまえは渡れなかった吊り橋を渡って一つまた過去になる


制服が真新しくて眩しくて前を向くのが難しい春


抱きしめてよし可愛いと確かめて深呼吸して説教をする


「おかあさん見て」ばかり言う3歳児だっこじゃないと泣く0歳児


君だけに起こせる風が吹き抜けてたどり着けない場所へ流れる


あたらしい成長ひとつ遂げるたびきみは光のかたまりになる


自分のとおかあさんのとお菓子でも花を摘むのも必ずふたつ


世の中で一番多い数は10一番大きな生き物はパパ


3歳の夢と誇りがマジックでピンクに塗った爪で輝く


おかあさんこわいと言われ苛立ちの塔が崩れて悲しみになる


お姉ちゃんみたいに跳びたい妹とミルクを飲んでみたいお姉ちゃん


思い出が形成される寸前のきみの記憶に捧ぐ霧雨


おかあさんおかあさんねえおかあさん湿った砂のように降り積もる


三歳が語る昨日の記憶にはみぞれのように夢が溶け込む


「おかあさんだいだいだいだいだいだいだいあしたまでつづくだいだいだいすき」


やっと寝た子らのおでこにキスをする今日の一番しずかな時間


赤ちゃんの時代を終えて人生の記憶のしっぽをいま生きている


どちらからともなく始まる鬼ごっこその瞬間にもうお友だち


靴はいて春の手前にいる二人あくびまじりの風をたべるの


あなたにはあなたひとりの物語たぶん読者でさえない私


爪そろそろ切ってやらなきゃ一日の最後に思うのはそんなこと


ためらってためらいすぎてくたびれて眠気がぜんぶ伝えてしまう


寝顔から今日一日を折りたたむ愛しそびれた場面もあった


悲しみを語るおまえの指先の動きで事態の重みを測る


「おかあさんおかあさんみておかあさん」強で回っている換気扇


そのままでとっておきたい剥きたての半熟卵みたいな言葉


「海のなみは海のなみだのことなの? 」と青いページを膝にひろげて


一日じゅう言葉吹雪が舞っている あのねえっとねきいておかあさん


気を揉んだあれこれどうにか乗り切って人生初の夏休みくる


蔓ばかり伸びて咲かない朝顔と時間ばかりがある夏休み


大人って憂えたほどは悪くなく思い描いたほど良くもない


これ以上蛇口をひねれば泣くだろう飛沫をあびて向き合う時間


思い出の色を決定するように八月末日アサガオが咲く


傾いてすべりこぼれる八月を暑い暑いと手繰って歩く


ふるさとの海の青さが出て行った私の意地をまあるく浚う


子をふたり乗せて漕ぎ出す自転車の笑いたくなるペダルの重み


スイッチに初めて指が届いた日つま先立ちの世界がひらく


もうすこし君の言葉が全身に到達したら目を閉じるから


園庭に愛のシャッター降り注ぎビニールまとった園児らが舞う


あのときにあなたが言った「だれよりも」とうに更新されたでしょうか


そりゃきみはもう随分な年だけどいなくなることないんじゃないか
by papiko-gokko | 2001-01-02 00:05 | 短歌まとめ
短歌1201~1300(2012年~2013年)
それぞれでいるのがもったいないような青空だから腕を絡める


「これ読むの?」「うん」が私とあなたとの初めて言葉で交わした会話


ふたりきり児童公園すべり台なんどもすべる北風のなか


「ほらあそこひこうきだよ」と指差せば私の顔を眩しげに見る


身長が70センチの子は空や遠い山より石ころが好き


叱ろうか褒めてみようか育児書をひらいた膝に子がよじ登る


子が真似をするようになり一言が濡れた毛布のように重たい


一歳の視野で歩けば石ころの模様しめった土の輝き


マンホールレンガ石ころ木の根っこ12センチの靴が見つける


気がかりなパーセンテージ示されてだけど明日もたぶん平和だ


靴下がいつもかたほう脱げている誰も知らないきみの冒険


繋いだ手もどかしそうに振りほどく白い帽子に春があつまる


去年とは異なる春を生きているきみは桜を見上げて笑う


パパという言葉と「ばいばい」「ただいま」をセットで覚え玄関で待つ


産声をあげて一年経った子の涙が徐々に複雑化する


まだ少しつかまえにくい春だからまず手袋を外して歩く


犬の絵に声の花びら吹きかけるように初めて「わんわん」と言う


もうおっぱい飲まなくたって生きられるきみに与える甘えの時間


雨の日は絵本が時を埋めていき「おおきなかぶ」を七本も抜く


シャボン玉つかもうとして追いかける背中に向けて次々に吹く


そっくりが縦にも横にも連なって予測できない明日をつくる


愛情の力加減がわからない 君が泣き出すまで離さない


学ランの青春時代に乗り込んで君のボタンに保険をかける


準備して挑みたいのに重大な事に限って突然決まる


東京の街の片隅ひと時は私がカギを持っていたドア


やわらかな眉毛がつくる表情のひとつひとつに愛情を塗る


驚いた顔から笑みがこぼれだす明るいほうへ伸びゆけ心


一歳の日常あらゆる出来事が泣く程のこと怒る程のこと


片づけたおもちゃ散らかし読み終えた絵本をひらき睡魔をにらむ


足元に転がる今を手にとって愛せるような名前をつける


点描画みたいに日々があつまってきみの笑顔の絵になればいい


生活の大抵のことに不真面目で眠気を探すときだけ真面目


触れてごらん小さなその手が音を生む形を作る色を見つける


カラフルな知育玩具に背を向けてへちゃげたザルで遊び始める


日常の景色が徐々に損なわれ最後に残るおまえのおもちゃ


別れには種類があると知らぬ子の「バイバイ」夕焼けだからバイバイ


そこにある心模様に目を凝らすアメンボみたいなおまえの言葉


ライオンが鹿に噛みつく映像を子は恐がりもせずに見つめる


現実を見ろと言われて目をひらく空は青くて山は緑だ


ほっぺたの産毛の見える距離にいて意識されずに見つめ続ける


この夏はまたとないから三人で入道雲に名前を付ける


改善の余地ある生活環境に思え腕組むホームセンター


簡単に「懐かしいね」と口にするたび思い出に頬をぶたれる


鼻セレブ勿体ぶって使ってるそんな平和な生活がいい


この色の名前を君に聞きたくて時間をかけてひらく唇


踏み込んだここは記憶の湿地帯はだしで駆けるかつての子供


愛情のぎりぎり届く範囲から君の幸せ願っています


水遊び光にまみれ全身できみは科学の扉をひらく


お得意の敗北感を光らせて君に言うのだ「応援してる」


手を握る力も強くなったけどおまえは一人でもう歩けるね


言葉ひとつ覚えるごとにこの腕に収まるものではなくなるおまえ


しゃぼん玉ふうせん産毛のひかる頬まるいやさしいきれいはかない


石ころを両手いっぱい集めたら空も大地も近づいてくる


ひとかじりクッキーそっと置くしぐさ私のこの子はもう女の子


幼児向け番組かかさず見る日々で意中の人はうたのおにいさん


いつまでも眠らない子が母さんの母さんじゃない時間を食べる


ワンテンポ置いて「なあに?」と振り返るオムツのレディーはもうすぐ2歳


「いち、にい」と一歳の子が真似て言い数字も言葉なのだと気付く


雨雲はすぐそこにある走れ走れ走って降られりゃ後悔はない


赤や黄や数あるなかでしわくちゃの茶色い落ち葉を拾ってはしゃぐ



ポケットが赤い木の実でふくらんだおまえひとりの詩人になろう


教えたいとか伝えたいとかじゃなく近づきたくて絵本をひらく


「だいしゅき」と飛び跳ねながら口にするきっと忘れてしまう初恋


おりがみのおにぎり持って座布団のボートでシーツの海へ漕ぎだす


だれも皆おまえの小さな要求に応えるためにいるわけじゃない


悲しみをしぼり出すように泣きじゃくるおまえにおやつの提案をする


人生はむずかしいなあオイチニと付けた弾みを持て余してる


「おかあちゃん」「なあに」呼ばれる幸せと呼べる幸せ繋げて笑う


起きて泣く子の耳元で子守唄ここは布団でそれは夢だよ


ふるさとはどっちつかずの生き方を代わり映えせぬ顔で見捨てる


黄色ってこんなに明るい色だった冬の終わりに見た菜の花の


しかたないしかたないけど考えないこともできずに月を見上げる


決心は紙切れよりも軽いから風よ吹くなら思い切り吹け


わたしいま ひとりぼっちをしていたの しょんぼりしょんぼりすわっていたの


人生で初めてきみが描いたカオ照れくさそうに笑っているね


誰よりもおまえを深く知っているつもりでいたいずうっといたい


抱き寄せる腕ふりほどき走れ走れ自由は与えられるものじゃない


言うほどのことじゃないけど言わずにはいられないことだらけの会話


やっと寝た子が泣き出して乱暴に母親というガウンを羽織る


だってまだ遊んでたいのしゃがんだら影に泣きべそ覗きこまれる


向かい風まるいおでこで駆けてくる冬のあいだに髪が伸びたね


イメージの世界の君は理解者で私のことを少しだけ好き


約束は「はるになったら」封筒の宛名めがけて春が始まる


中指と人差し指の隙間からこわいあいつに睨みを利かす


頼むから寝てくださいと雨乞いのごとく念じている午前二時


踏み台にのぼり小さな手を洗ういまにも過去になりそうな今


いないいないばあするふりで涙目を隠したっきりばあができない


おかあちゃんおしごとしないでようと泣く24時間おまえは2歳


ポケットに届くおてがみメモ帳に色えんぴつでぐるぐる描いた


家にあるどの鏡よりオーブンの扉に映る自分を愛す


ブランコに揺られ続けてある日ふと次の景色に進みたくなる


雨の日のおりがみ淡い諦めを翼のかたちにしていく作業


覚えてて2歳の春はブランコにふたり揺られて桜を見たの


逃げたいというほどじゃないただ少し荷物を水に浮かべて寝たい


説明のうまくできない正しさを大人の顔で泣く子に示す


このあいだたっちした子が駆け回り空飛ぶことに憧れている


泣いてるの涙が止まりそうだからそれが辛くていま泣いてるの


ワンピース着るときは「もうおねえさん」ねんねのときは「あかちゃんだから」


真夜中におまえがひとつ咳をして耳を覚ましたまま朝を待つ


いいことを思いついたと言ってみてそれを一つのきっかけにする
by papiko-gokko | 2001-01-02 00:00 | 短歌まとめ
短歌1101~1200(2011年~2012年)
君といてますます待ち遠しい春の折り目を濡らす三月の雪


わた雲でキャッチボールをするような喃語のおしゃべり目を細め合い


どうやって守ればいいかわからずにとにかく強く抱きしめている


できることできないことの境目にやさしく置かれている募金箱


当然のなりゆきとして咲くサクラ街から人の声が消えても


傷口を覆うみたいに降る雪のひっきりなしの冷たさに泣く


子守唄うたい歩けば母の母のそのまた母の声が重なる


ぐずる子を抱き姿見の前に立ち母親という生き物を見る


母になる準備運動真夜中の抱っこおっぱいおむつ交換


この先に君に見せたい春があり風に逆らい押すベビーカー



初めての予防接種で元気よく泣いて人生ひとコマ進む


家族という単位のなかで幸せは探すものではなく守るもの


紙くずも洗濯物もタッパーも君が笑えばおもちゃに変わる


寒い寒い季節に生まれ君の手が風にほどける初めての春


ゲームより地味でシビアな選択肢ひとつしかない命で進む


液体になった私は存在を君に注いで輪郭を持つ


誇らしく照れくさい色 母としてはじめてもらうカーネーションは


夕焼けの残りを探すような目で明かりを消した天井を見る


同じだけ失いながら生きていく大事なものが似ているふたり


君が手を伸ばせば不思議が目を覚ます君が笑えば地球が弾む


ふるさとの話をしよう春風を古い決意にはらませながら


駆け寄って抱けば泣きやみつやつやと笑うこの子を守らなければ


幻の君が好きです居酒屋で再会なんていらないのです


真っ白なお粥はじめて口にする土の育てた食べ物の味


安全と危険の基準があやふやで結局ゼロしか信じられない


幸せと口にしたとき幸せは手のひらに降る粉雪のよう


かあさんを魔法使いにしてくれる混じり気のないその好奇心


目に涙ためてケロリと笑うから君の心は侮れないね


この星が君をひたすら幸せにするためだけにあればいいのに


どんな夢みて笑ったの母さんの知らない世界もう持ってるの


夏空に入道雲が現われて君は初めて寝がえりをした


「おかあさんといっしょ」子どもと観た後でうたのおねえさん年下と知る


でたらめで本気の遊びボクがいて怪獣がいて事件がおきる


歩くよりまず蹴ることを掴むより引っ掻くことを先に覚える


キスしたいけれど起こしちゃまずいから時間をかけて瞬きをする


ぬいぐるみ力いっぱい振り回すまだ思い出を持たないおまえ


人見知りふいに始まる六ヶ月せかいがわたしにはいろうとする


汗だくでビニールプール膨らまし中腰で水張り遊ばせる


あのころの夏は長くて凍らせたペットボトルと濡れた首筋


先生は何も知らない 宿題のよくできましたシールをなぞる


おすわりができて乳歯が生えてきて人生初の夏が過ぎゆく


きみの泣く理由は分かりやすいけど笑顔は探せば探すほどある


体には猛毒を持ちプランクトン餌にしながら眠い目をして


謝って済む問題が山積みでここに貴方がいればいいのに


素晴らしいことがどんなに起こってもあなたが泣いているなら不幸


腕の中じっと見上げるまるい目に空を背負った私が映る


目やにすら元素単位でいとおしい抱きしめられる宇宙を産んで


記念日にショートケーキをふたつ買う箱の軽さがとても愉快だ


瞬きがシャッターならばいいのにね初めて我が子その腕に抱き


きみを連れ歩けば話しかけてくる風も光も花も木の葉も


繰り返しいないいないばぁして笑うおまえのそばにずうっといるよ


散らかした部屋で赤ちゃんせんべいを一緒にかじるおやつの時間


きみの名をあちらこちらにちりばめた作詞作曲かあさんのうた


生えたての歯で思い切り二の腕を噛まれて痛みすらも嬉しい


目覚めればあなたはあなたのものだから今だけ私のものと言わせて


姿見に映る自分に手を伸ばす君は何かをわかろうとして


ささやかで静かで小さな夜でしたパパの鼓動ときみの産声


ハイハイで窓辺に向かいカーテンと遊ぶその手が集める光


永遠のように思えて束の間の子供時代の入り口に立つ


人生を君がやさしくややこしくしたから各種保険に入る


きみがこの世界を好きになれるよう風船とばしラッパを鳴らす


おもちゃにも影があることまだ言葉もたぬ娘と向き合う昼間


憧れが山頂付近で破裂した僕を真面目に笑ってくれよ


ストールのようにふんわりさりげなく自分の意思を纏っていたい


食べこぼし拭いて額の汗拭いてきみが笑えばなんでも愉快


バンザイを教えなくても誇らしい時は笑顔で両手をあげる


「いいよ」より「だめよ」が多い「おいで」より「まって」が多いきみとの暮らし


句読点ぱらぱらと降る雨の日は心を込めて退屈にする


帆を張って風待ちながら口笛を吹いて心の在り処を探す


世の中がどんなに不穏に動こうとこの子は2時にお昼寝をする


足元でボウルを楽器にして遊ぶこの子の母になれた幸せ


ふりかけの栄養成分読みながら長生きしたいとぼんやり思う


やわらかな手にえんぴつを握らせてきみの世界がひらくのを待つ


手のひらであたためながら冬の子の赤いほっぺは冷たいと知る


ナチュラルが一番ですという人のきっちり整えられている眉


三拍子きざんで歩く並木道 単調だけど退屈じゃない


ブランコに小さなきみを抱いて乗るよく似た写真を見たことがある


はじめての動物園で動物を見つめるきみの顔ばかり見る


「てちてちてち」「まんまんまん」のおしゃべりにおかゆ煮ながら相槌を打つ


バイバイのしぐさ覚えてさよならの意味はまだまだ知らなくていい


この胸をめがけ踏み出す一生に一度しかない初めの一歩


だれかだれかだれかだれかと言いながらだれともなにも共有しない


両の手を「ばぁ」とはずせばかざぐるま回り始めるみたいに笑う


見つめても見つめてもまだ見ていたい風と光で磨かれた頬


半年で小さくなったロンパースこの子を抱いた確かな記憶


ニンジンさん悲しんでるよと教えれば急に哀愁帯びる人参


捉えたと思えばひょいと変化する育児の日々は影踏みのよう


かあさんはかあさんだから強いけどかあさんだから恐がりなんだ


風邪薬シロップ飲んで眠る子の甘い寝息は真空ゼリー


安心をむさぼるように乳を吸うこの子の母であろうとにかく


その足でずっと歩いていくんだね蕾のような初めての靴


一年前おなかの中にいたきみが窓に額をつけ外を見る


振り回し振り回されて腹を立てそれでも一緒にいるのが家族


ため息を子に真似されて私には明るさだけが許されている


明け方の夢のほとりに住む象に案内されて寝がえりを打つ


優しさが大好物でいつまでも困ったふりがやめられません


はじめての地面に立って二歩進みしゃがんで砂利をその手に掴む


投げつけるではなく差し出すように言う大人になった君がきらいだ


マジックで口とおめめを描き込めばなんでもきみのともだちになる


きみを生み今日まで育て流れ星浴びてるような一年だった
by papiko-gokko | 2001-01-01 23:57 | 短歌まとめ
短歌1001~1100(2010年~2011年)
待ちわびた春のまんなか咲き方が分からないまま風にふくらむ


お揃いで羽織るジャケット少しだけ背伸びをさせてくれる君が好き


科学者になれない君と神様のみえない僕が集める電池


リビングにふたりで買った家具が増えまた後戻りする余地が減る


休もうか駆けあがろうか坂道の途中でふいに気づく靴ずれ


クリニックパチンコ葬儀屋不動産かわらぬ駅の広告と僕


帰れない人の数だけ灯されて光り輝く東京の夜


思い出は数え切れないほどあって言いたいことはひとつしかない


雨男だからと苦笑する君の降らす雨なら桃色の傘


春風に抱かれお別れ陽だまりに目を細めたら振り向かずゆけ


背を向けて空を睨めばこの星の一番遠い場所で目が合う


シワのないワイシャツ隙のない君の休日なんて知りたくはない


始めたいこともないのに終わらせてしまいたいことだらけの日々だ


クセのある香水つけて着々と君の意識に縄張りを張る


目を閉じてあなたの歌を追いかける同じときには歌えなかった


こっそりと振り返ったらまだ同じ顔して立っているお母さん


友情も恋の持続も諦めてやっと優しくほほ笑みあえた


ケンカして仲直りして始まりを忘れるぐらい一緒にいたね


喜びに触れる間際の戸惑いに君とはにかむ雨音の中


ひとつだけ君の命と約束を交わそう僕はずっと味方だ


ポケットにキャラメルの箱なつかしい昨日と見たい明日があるの


夢で会う君は私を少し好き私は夢と気づくほど好き


声がする海風のなか今じゃない場所から届くきみの声だね


朝焼けに地球一周パイプ椅子並べてひとつの命を待とう


生命の奥へ奥へと誘い込むように轟くおまえの鼓動


建て付けの悪い事務所の窓を開け風を待つとき故郷が欲しい


雨の日に灯した愛がありまして君の生まれるまえのお話


会うまでにあなたに贈りたいものが増えて日に日に大事な明日


晴れた日に君が元気でいればいい雨に差したい傘をあげたい


ブランコが少しも退屈ではなくていつも砂粒まじりのシューズ


カーテンが風に膨らむ教室で思い過ごしの鼓動とじゃれる


ひとりでも歩ける君のまっすぐな背中に微かな追い風よ吹け


返信が欲しいのじゃなく君の手を遠隔操作したくて送る


闇を裂き電車が通過するたびに途切れる会話ちかづく心


ゆくゆくはムーミンママになりたいの野苺を煮てマフラーを編む


雨にぬれ波打つ地図が平坦な道じゃなかったことを教える


この星が希望に満ちていなくても君に生まれて笑ってほしい


一杯のホットミルクを分け合った夜更けまぶたに君の声ふる


パレットの上で乾いた空色を雨の町まで溶かしにいこう


会いたくて会いたくなくてあの頃に流行った歌を繰り返し聴く


秋の絵を君がどこかで描いてたらいいなと思う色の夕焼け


旧姓で実家に届く郵便がこだまのようにだんだんと減る


色あせた布張りの本手にとればその感触がもう物語


風のなか夏の終わりを君が抱き秋の初めを私が掴む


君去りし後の坂道あかね色だれも待たないバス停の影


生んだヒト生まれたヒトが一列に並んで次の命に祈る


公園のオブジェのように漠然と不気味で無難な言葉を残す


サヨナラを決めて無数の水滴がいつもの日々を閉じ込めて散る


聴かせたい歌や着せたい洋服やおもちゃもあるよ生まれておいで


りんご飴つやつや並ぶ店先で作り話の思い出を買う


夢で抱く君は小さく髪の毛に指を通せば霧雨のよう


性別も顔つきもまだわからない我が子に似合う毛糸を探す


泣き顔をよく知っている君がもう泣かないような未来よ続け


まだ青いみかんの皮をむきながら二カ月先の別れを思う


目を閉じてその暗闇を見つめれば遠い記憶のメリーがまわる


思い出のなかの笑顔に貼っていた付箋が虹に変わる「久しぶり」


そびえ立つゴミ処理場の煙突が私の仰ぐ空を吸い込む


神さまのひざで泣きたい信じてることがなくならないから辛い


無いという前提がありスコップで湿気た地面をめくり続ける


足元をヘッドライトが行き交って命の透けていく歩道橋


夕暮れの砂場に刺さるスコップを忘れ続けて駆け戻れない


君に触れ痛みは消えて胸の奥あとからあとから祈りが湧くよ


世の中を味見程度に受け入れて見下すことも忘れずにいる


君のこと大事にしない人たちが嫌いで君を好きだと気付く


大人びた誤魔化し子どもじみた主張そんなことよりまずうなだれろ


青春をつかさどる君ゆめにでて不意に私を旧姓で呼ぶ


雨粒も枯れ葉もマスクもきらきらとおなかのなかに陽だまりがいて


見抜けない心ダイレクトに抱きしめて抱きしめてこの恋うつしたい


リュックには板チョコと地図一歩目は結び直した靴紐の向き


やがてくる大きな波を待ちながらまるく静かな海を見ている


あの青は渡れない青あきらめの悪い駈け足あざ笑う青


突き進む冒険家にはなれなくて昨日とよく似た今日を愛する


はしゃぎつつベビーベッドを組み立てるもうすぐ親になる子供たち


三日月を見上げて歩くシンプルな答えを見つけ出したい夜に


から元気だったとせめて気づいてね別れたことにしてあげるから


冷えきった朝の乾いた唇で封するようないってらっしゃい


砂煙あげて明るく立ち去った君の轍に溜まる雨水


買ってきたビデオカメラを構えれば早くもパパの表情になる


生まれくる時待つ日々の眠たさよ大丈夫だよ春はすぐそこ


ベビーカーベビーベッドに哺乳瓶あなたが帰る最初のおうち


待ちわびる心透明抱きしめたとき流れ込む色ではじまる


やわらかなパンちぎりつつ目が合えば思い出よりも明日の話


つかのまの日なたにベビー布団干し春を迎える準備はじめる


私からはみ出さないで生きてきた私が私じゃない人を産む


足音が近づいてきて張りつめる心臓ゆるむ頬ふりむこう


耳たぶはあなたで爪はわたしだね宝の地図を眺めるように


抱き上げて話しかければ眩しげに口をすぼめてその声を吸う


高く広く澄みきった青うでのなか生まれて初めて目に映す空


スプーンでたっぷりすくうポタージュのようにあなたの視線をたべる


花びらや木の実や雪や貝殻を始めて握るその手のひらに


音のない窓を横ぎる飛行船きみが生まれた日の昼下がり


笑顔より先に泣き顔から出会う我が子にかける言葉を探す


記憶には残らなくても意味がまだ分からなくても今日から家族


まだ春を知らぬ我が子がまず冬の眩しさを見る窓ごしの雪


これが君の手だよ足だよ太陽を力いっぱい捕まえにゆけ


いつの間に春の光を歩いてた重いコートとブーツのままで


絹糸の寝息に巻かれ月明かり子を抱いたまま青白い繭


子に乳をむさぼられつつサバンナのあらゆる雌と話がしたい


子を乗せて漕ぎだすボート方角も時間も失くしている霧の中


子守唄くちずさみつつ体温と呼吸と頬の色で会話する
by papiko-gokko | 2001-01-01 23:53 | 短歌まとめ
短歌901~1000(2009年~2010年)
青白い手持ち花火を傾けて夜に笑顔を焼き付けた夏


幼い日かるい気持ちで背に負った取り外せない羽を引きずる


公園の時計みやれば夜空から届き続ける昔の光


容赦ない夏の陽射しに伝えないままの言葉が炙りだされる


眠るまでお話してよ僕だけがよく知っているあの物語


流れゆく見飽きた景色だれからも視線をそらすために眺める


君の目を見つめ返せば向かい風なぎ倒される大事な言葉


テーブルのカナブンそっと捕まえる君の手つきが少年になる


ありがとう優しい忠告ごめんなさい正しい仕打ちさようなら辞書


憧れは容易く恋に変わるけど手に入らない愛はいらない


待つことを選ぶ真夏のはじまりに木陰で食べるソフトクリーム


男性用下着売り場を歩く時あなたの妻になったと思う


千切れそうなのがせつなさ千切れても痛くなくなることがさみしさ


見抜かれているのだろうかコーヒーをかき混ぜる手が鼓動に触れる


生活にまみれて仰ぐ青空は洗濯物と遠い約束


くちばしの色はとびきり鮮やかに君の強がりついばむ為の


植物が育つ職場の窓際を羽虫のように這うタイプ音


抱き合えば身体の熱が傾いて幸福感がなだれを起こす


いい加減しゃべり疲れているけれどまだ相づちの数が足りない


手をつなぐコンビニからの帰り道21世紀初頭の恋に


つねるのもつねられるのも好きなんてどうかしてるね恋をしてるの


君の来た朝は無性に恥ずかしいラジオ体操第二が嫌い


夏休みぜんまい仕掛けの恋心ちからいっぱい君に投げだす


純情を最初で最後の武器にして焼けた浜辺に零すサイダー


何もかも夏のせいなら息切れのキス海風に溶けるのを待つ


言い訳も今更だから酔わせてよ貴方ひとりの悪女になろう


「ただ聞いて欲しかったの」が通じない話せば君は救おうとする


傷つけたつもりなのにないつまでも優しく歩幅あわせないでよ


日常に君が与える緊張を恋と名付けてリボンを結ぶ


泣くことと立ち直ること繰り返す 大人になってもう六年目


潮風を知ったパラソル折りたたむ誰も待たない私に戻る


クリックが舌打ちのよう満足のいく情報ははここにもないや


明日以降わらい話にするべきか洗面台に映す泣き顔


何もかも打ち明け合いたい完全に他人でいたいカウンター席


死にたいと呟くぐらい見逃せよ死にたいわけがないだろうバカ


起きぬけに君と競って飲み干したペットボトルのラベルをはがす


携帯が震え続ける私のじゃない携帯がテーブルの隅


新しい色の絵の具が欲しくなる君の町にも秋がくるころ


この空とあしたの天気予報だけ知ってる僕に届く絵葉書




輪切りしたパイナップルにかぶりつく強く静かに雨の降る夜


あの人の声が震わす寝不足の頭の奥に降るふくらし粉


浅はかな憧れ集め歩く街みつけ疲れた僕をみつけて


いいわけの札だけ立てて捨て去って幾つ花壇を台無しにした


まんまるのケーキ切り分け笑いあう貴方と共に生きていくこと


雨上がり思いがけない青空がはじまる雲の切れ間を探す


怒りではなく悲しみの表情で叱られている うっせぇばばぁ


息深く吸えば排気ガスの臭い汚れて生きる覚悟はできた


あの日だけ綺麗に残し遠ざかる季節が君を切り絵に変える


降り続く雨がすべてを懐かしくする庭先に濡れるコスモス


菊ばかり並ぶ花屋を横ぎって昨日まがいの今日を始める


懐かしい愛に心を横たえるリンゴを剥いてもらうひと時


貴方から貸してもらったジャケットで温めすぎた身体がだるい


休日は何をしてるの待つ事と忘れる事と退屈してる


コンビニの棚が季節を変えるたびぽつりと思う もうそんな時期


はじまりの時から続く暗闇を抜け遺伝子が世界に触れる


水溜まりゆらりと避けて月曜の朝は昨日の夢が友達


「ほらもっとひっつきなよ」とデジカメのシャッターを押す指が震える


可笑しくてやがて泣きたくなるようなケンカのあとのまぬけなおなら


水滴でタイルに君の名を書いてひとりぼっちの深みにはまる


風邪気味の君が気になる風邪気味の君を心配してるアイツも


金曜日空けておいてと別れぎわ日付の森に明かりが灯る


君を待つ気配がすでに懐かしいカゴの壊れた自転車できて


闇雲にからだとからだ繋ぐほど同じ度合いのひとりぼっちだ


からっぽの卵をじっとあたためてひび割れるのは私の心


足首を撫でるさざ波なまぬるく水平線に溶けだす螺旋


三日月に分けてもらった引力で君によく似た子を夢で抱く


一面に濡れた落ち葉が膜を張る誰も知らない明け方の雨


ひとりでは抱えきれない東京をぶれた写真でお送りします


現状に決着よりも折り合いをつけて進もう幸せが好き


この国のどこを居場所と決めて住むコンビニだけがいつも親しい


去る人の背中は強く正しくて手を振る場所で石になりたい


欲しいのはきわどい秘密もっともっと僕の事情に深入りしてよ


肩の雪はらい落とせば指先を君と歩いた時間が濡らす


気だるさと明るさ眠い目をこすりハンドル握る始まりの朝


モノクロの写真しずかに青ざめて過ぎた昨日は死よりも遠い


ブレーキを踏むタイミングだけ上手い恋の手前でハンドルを切る


願いごと吸って膨らむ初恋の人の背中は星空のよう


舞い上がる雪が世界の境目を消してあなたの足音を待つ


あたらしい光あなたと歩く朝ふたつ並んだ影によろしく


青空をカーテン越しに持て余す休日真昼のバスでいこうよ


出勤の服が決まらずあの人に好かれてみたい自分に気づく


ラブレターもしもお返事くれるならあなたの選ぶペンは何色


平然と受け取ってほしいのに君がドキドキしたらドキドキするよ


抱き合って宇宙を交換するあいだ笑えるくらい真面目な身体


きっかけをつかめないまま時が過ぎ誰も見てないテレビが笑う


甘ったれ飽きて眠たい我々は称えるよりも叩くのが好き


今日限り私を終えると知っていたようにまっすぐ落ちる髪の毛


公園のすべり台から夕焼けが子鬼のように近づいてくる


携帯を二つに割ったエピソード自慢した人これでふたり目


カーテンじゃ隠し切れない真夜中が朝に向かって青ざめていく


関係を清めるための接近を指きりげんまん以上キス未満


あくまでも優等生でいる私ここにいなくていいのに私


太陽というより君はいつまでも静かに降り続いてほしい雨


教室のおへそは君の後頭部わたしの視線へその緒になれ


正しさを説明できぬ人たちが集い興じる間違い探し


くだものを積極的に取りましょうアダムとイブをお手本にして


熱唱を採点されて冷やされる魂タバコくさい箱の中


ポケットにチョークのかけら潜ませて彼はだれかに探されにゆく


約束のひとつくらいは果たされて君と私の千年むこう
by papiko-gokko | 2001-01-01 23:22 | 短歌まとめ
短歌801~900(2009年)
朝焼けの電車でおいで眠い目に見たことも無い緑をあげる


風向きが悪かったんだ一度きり横切ったのに髪を気にした


誰の目が僕を減点するだろう今日は何処から失格だろう


臆病と思い上がりに挟まれて二〇センチの距離を維持する


なにもかも駄目になったら行くからね僕の天使は屋上にいる


まだなにも聞かないでいていつもより時間をかけてうがいをさせて


やがて止む雨を見ている軒下でとぎれとぎれの会話が続く


なぞられるほど球体に近づいて転がりだしてしまう 砕いて


思い出すことがたくさんありすぎて夏の終わりの日なたスキップ


君と僕だけが知り得る学問の研究室を手に入れた夏


優しさが複雑にする関係のみんなで吊るす爆破スイッチ


上の空いつもどこかに帰りたい私を射抜く矢印は時


パイプ椅子音もたてずに折りたたむように日暮れの家路を辿る


見たりない話し足りない君といる限り嫌いな「おやすみなさい」


すべてから遠ざかりたい足音を響かせながら泳ぐ地下街


優しさで計算された去り際の余韻のしっぽ踏んづけてやる


青空の下の沈黙きみの手を濡らし始めるソフトクリーム


割増の深夜タクシー メーターが恐くなくなるまで走ってよ


全力で君の仕草を駆け抜ける校庭一周分の欲望


さっき来たイチョウ並木を引きかえす 結末をまだ用意できない


時間軸ぐんとしならせ高跳びで昨日の背中蹴飛ばしにゆく


楽しくて全部そろっているけれど どれもこれもが前ほどじゃない


謎めいた君の机の引出しに滑り込ませるため書く手紙


戦いを挑んでみては思い知る敗北感に恋が紛れる


東京で愛され葱のみじん切り上達しちゃったから帰れない


増えていく電化製品常備薬そろいの食器ふたりの暮らし


夕暮れのひとちがい皆それぞれに遠い誰かの面影を持つ


眠れない夜はウサギのいる絵本はしゃいだ夜は小熊の絵本


静けさは誰もが眠るからじゃなく眠れぬ人がそれを聞くから


パレットに出しすぎたアオ使い切るただそのために目指す海岸


強く強く風吹く時刻きみの名を裂いてさらわれたくて叫んだ


がんばった昨日もなにもない今日もメダルのような夕日がひとつ


行き先と帰る時間を伝えたい人を探しに出かけてきます


板チョコを通勤バックに潜ませて自由を手放さないおまじない


春を背に芽生えた君の屈折をゆるく肯定する坂の道


安全な平均台に腰かけて数えるものはいくらでもある


似合う色よりも互いの好きな色みつかりそうな距離の日曜


手を振って振ったその手でしがみつく思い出ぼくを裏切らぬもの


取り返しつかない夜の真ん中でふたり冴え冴え星空談話


誰に何を伝えようとも思わない 儀式のようにピクルスを抜く


「ありがとう」より的確な挨拶を探せばそれは「大好き」になる


君だけはこれから先も旧姓で呼んでください封印として


はじめから違うふたりの大切をひとつの箱に並べて仕舞う


少しだけ好きだったかもしれなくて冷やかしすぎてしまう おめでとう


くすくすと僕の身体をちらかして愛の意味だけきれいに残す


純白の前夜きれいになったねと君に言わせてから巣立ちたい


封筒に郵便切手をはるまでは私に届きつづける手紙


会いたいねまた会いたいねいつまでも会いたいねって言い合いたいね


コンビニでビニール傘を買って差す雨の日はじまらない物語


さよならの準備段階夕暮れの電信柱かぞえて歩く


探しものなら降りしきる雨のなか失くしたものはひだまりのなか


先生の三角定規追いかけて視線の交わる点を求めよ


握力も靴のサイズも平熱も知っているのに聞けないメアド


生きるのに僕は夢中で無気力で待ちくたびれて幻を見る


追憶と理想を胸にカウボーイ張りぼて荒野はいつも夕暮れ


正当な前売り券を持つ人に嫉妬しながら闇を横切る


泣いた眼に流れる雲が新しい なんてことない一日だった


手を振って一人乗りこむタクシーの骨格を這うAMラジオ


懐かしいような夕焼け毎日は単調だけど単純じゃない


最高の角度で君に見せたくて今日の陽射しを使い果たした


ケンカするまえに笑顔で火にかけたシチューが煮えていい匂いだね


憧れを夏に焼かれて僕達は過ぎた祭りのうちわで扇ぐ


あいまいに君が示したさよならの型をとるため涙ながすの


向かい合うほどに言葉は愛よりも卑怯な嘘とたやすく馴染む


恥じらいと不誠実からカタカナで送る『ゴメンネ』 許さないでね


作戦は実行寸前までいってその横顔でUターンする


ふわふわと甘いあいづち打つあの子だまらせたくてムカデの話


街じゅうに春がきている大げさなあくびの後にため息が出る


見つけたらメールください懐かしい丘の向こうに新しい虹


MPがいつも足りない僕たちの遊びはやがて祈りに変わる


月曜日あらゆる菓子パンにも飽きて定期更新おはよう諸君


学ランの似合った君の面影が無精髭から蝕まれゆく


笑うのも泣くのもなにか違う気がして口ずさむ旅立ちの歌


厳密に守らなければ死ぬのなら転ばないのに日々は優しい


日常に私ひとりの哲学を見出すために買ったサボテン


作戦は実行寸前までいってその横顔でUターンする


美しく割れて散らばり割れる日をめがけて生きた百円グラス


満開の桜並木で金髪の若者が撮るはんぱねえ春


渾身の桜吹雪が目覚めない君の窓にも吹きこむだろう


のびていく影を見つめて歩こうよ打ち明けながら川沿いの道


あの町にセブンイレブンできたこと伝えそびれて半月が経つ


背中から汗ばむ朝は暑がりの君が脱ぎたい服を着せたい


「ごめん」ではなく「やめよう」と力なく目を背けあういつもの部屋で


黒鉛の匂いが染みたノートには君の視界が広がっている


人生の意味など熱く語ろうと明日は雨降り傘さす猫背


電話して笑って切って静まってかける前より寂しくなった


大げさに生きてわめいて笑われて誰か振り向くならそれでいい


冒険の続きはあした安心を補充するため家へ帰ろう


いつのまに大人だけれど夕焼けが淋しいみんないつかの子供


吹きぬける風に空耳きみの声まだひらがなで呼び合ったころ


庭先の紫陽花なぜかこの家をよく知っているような気がする


ゆるやかな吐き気を抱いて散らかった早朝の街だれの太陽


ため息と愛想笑いと生あくび量産しても平和が好きさ


目立つでも役に立つでもなく続く一日いくつ決め事まもる


君のこと好きでいるのが好きだからデートコースは何処だっていい


淡々とやりすごせない打ち消した熱が湿った窓枠を這う


水彩の絵ハガキよりも近くまで来ているんだと電話がほしい


お別れに君の口ぐせもらいます他には何も盗めなかった


激安の夕暮れスーパーマーケット青が短い横断歩道
by papiko-gokko | 2001-01-01 23:18 | 短歌まとめ
短歌701~800(2007年~2008年)
夕焼けに試されている今日なにか言いそびれてはいないか君に


パーキング脇に転がるコーヒーの缶の虹いろ蹴りながら行く


僕の好く君は黄色い春が好きフレアスカートくもらせながら


思いやるしぐさも思いきるふりも上手じゃなくて友達でいる


君の目に留まったのならそれきりで失くして帰りたかったブローチ


最果てを見たい心で最後尾各駅停車池袋行き


降りてゆく人ばかりいる夕暮れの下り列車はカーブを愛す


噛みしだく耳たぶ胸に吹きすさぶ悪意を君は聞いちゃいけない


持ち物の趣味が変わったことなどの理由を見つめながらおどける


住むことのないアパートの片隅にピザ屋のバイク居て去ったこと


待ち人の手にくるまれた約束が春をめがけてやぶられていく


今欲しいものをさらりと言い当てる君の見ている私を見たい


携帯をしまえよ愛想笑いよせ僕の鼓動を舐めないでくれ


一日のとどめのような夕焼けにそこらじゅうから孤立する影


電話だとぶっきらぼうな私たち月を見ながら話しませんか


冷蔵庫ひらいてしゃがみ込んだままふくらはぎから無気力が湧く


眠る人だけを静かに引き離し世界は常に新しい顔


元気かという問いかけにがんばっているよと微笑う そばに行きたい


見抜くより一緒に見失うほうが いずれにしても救えないなら


カラフルなグラフ貼りだし背後にはパーセンテージ振り切れた空


おはようのたった一言交わすため時間配分綿密な朝


なんだっていいから君の行動の理由になってみたくて誘う


次々に色をつぎ足すパレットに僕の持ち得る自由のすべて


毎日がひねくれながら優しくて泣いてしまうし笑ってしまう


見出しから見出しへ見境もなく舞う羽化して蝶になった欲望


君とした会話をキスの回数が上回りそう今夜このまま


「いいよ」とは頷けなくて「どうだっていいよ」とそっぽ向いて笑った


春一番ぼくの背中を押しまくる全てそのまま背負っていけと


やぶっても誰も泣かない約束を季節のように守り続ける


間延びしたドラマは続く今日こそは明日こそはとくぐる校門


集まっておいでよ夏の公園に影を忘れて帰ったみんな


好きという基本事項に幾つもの問いを重ねて冴えわたる恋


あの人は冷えてもうじき向こう岸 ついたら波をひとつよこして


なるべくは好きでありたい人達に豆腐のような私で挑む


今ぼくは苛立っていて怒ってて鳩よ少しは脅えてくれよ 


出力の用紙サイズを間違えて真面目なままではみ出していく


淡々と低い耳鳴り連れたまま紙飛行機の飛ぶ教室へ


玄関でキスをするときつま先が子供じみても許してあげる


どうにでもなることばかり行儀よく悩んで何も質問はない


夕焼けがきれいで花が咲きそうで誰かあいさつ交わしませんか


有害であってたまるか初めての相合傘に降り注ぐ雨


そそくさと君が視線をそらすほど存在感に拍車がかかる


朝焼けに溶ける足取り粘ついて昨日もここで赤だったっけ


とっておきばかり身につけ前髪と沈黙ばかり気がかりだった


今だって会いたい君の懐かしむ過去から僕を追放してよ


雨の晩だれも知らない十字路のカーブミラーに私が映る


押入れを潜水艦にぼくたちの二段ベッドは海賊船に


音もなく加速していく残忍な子供の遊び 夢は医者です


思い出になることのない大半の過去が私の生を漂う


ささやかに生きる私のこだわりを君は見抜ける位置にいなさい


僕じゃない人の力で僕だけに君が教えた願いが叶う


酔いながらひとりよがりの夢をみて竜宮城のようなキヨスク


自転車の鍵にはメッキの剥げた鈴 守りきれない失くしきれない


霧雨に折りたたみ傘ひろげれば考えごとの数ほど独り


脱走を試みながら整然とタイムカードは鱗のように


ぼくのことどう思ってる?完璧な答えがあるのなら言わないで


今すぐに会いに行くから手土産はすみれの花とアイスクリーム


お母さん夢をデパート屋上の遊戯施設に置いてきちゃった


パラシュート着地できない夜ぼくの影があなたに落ちる確率


今ぼくの思い通りじゃないことを数えて歩くコンビニ帰り


曇らせてくれよ六月ここにある清く乾燥しきった別れ


冴えていく深夜パジャマの隙間から架空の羽をねじ込んで飛ぶ


帰りたい場所に吹く風アルコールわずかに含みながら口笛


ぶわぶわと音をやぶいて通過駅だれが僕から遠ざかったの


視界には同じ帽子のつば今日もうつむくほどに平和な世界


元気出せなんて言わないここにいて走りださないオニになりなよ


妹の楽譜ぱらりと彼女には彼女の淡い追憶がある


清らかな新郎新婦になるまえに嘘ひとつずつ交換しよう


マニュアルをあげよう僕を困らせず君が泣かずにすむ千ページ


あてもなく忘れられないひまわりの庭を追いかけ翳りゆく夏


繰り返すリズム踊ろう真上から照らせよいつか壊れるすべて


まだ浅い眠りの波を蹴散らして横顔のままあなたが笑う


すきまなく死に物狂いで輪になってお昼休みはみんなでごはん


いくつもの歌とひとつの物語 夢に降る雨カーテンコール


いいかげん向かっておいでまだこれをひとりごとだと思っているの?


酒臭い息で語っているかつて問われるごとにほころんだ夢


知りたいと知りたくないが交差して「元気ですか?」とだけ打つメール


ごめんそれ知らない言葉かみ砕くまで付き添って百年ぐらい


昨日までふざけてばかりいたくせに振るならもっと可憐にやれよ


急かされて歩幅も進む方向も悩み損ねた末の満席


ここからは君の呼吸がよく見える もうすぐで目を覚ましそうだよ


夕立ちののちの夕焼け夢ごごち閉じて滴る傘の実直


少しだけ先に大人になる僕の作り笑いを嫌っていてね


無期限の白い関係 近況を見失いたくなくて友達


自惚れと卑屈が同時に攻めてくる君にメールを打ち始めると


なぜそんなことを言うのかしちゃうのか知りたいけれど解りたくない


神さまも座敷わらしも鬼の子も人の暮らしの影かくれんぼ


おめでとうよりさみしいの一言が嬉しくてでも、だからサヨナラ


押し込んだ過去も畳んだ結末もだいなしにする君の優しさ


お別れの涙を分散するための一年三百六十五日


適量の涙を流し潰れない程度で耐えて夕焼けきれい


逃げたって生きていけると知りました以上かつての児童代表


有り余る音と光とタイミング街の合図を無視して走る


幸せか幸せだろう頷けよ幸せなんだ今世の中は


「銀行に行ってきまぁす」意図的にゆるめた語尾をオフィスに残す


言わなくていいことだった最後まで目をそらさずに言えないのなら


ご褒美にもらったアメを舐めながら甘え足らない心に気づく


長い長い恋をしたことそれもまた酔って語ればただエピソード


怒るでも媚びるでもなく雨の日の遠い案山子のような訴え


生い立ちをなぞる過程で君といる今を静かに特別視する
by papiko-gokko | 2001-01-01 23:15 | 短歌まとめ
短歌601~700(2007年)
スカートのすその刺繍を記憶して 風が吹いたら思い出してよ


ほろ酔いで歩く月夜の池袋わたしにだってある物語


視界から分離していく友だちの背中で測っている現在地


水面に心模様を映しあう吐息でゆれて触れてゆがめて


目は冴えて正方形の真夜中で記憶を裂いて倒れるドミノ


ハミングで潤してきた憧れを抱えて君に会いに行きます


冗談で奪ったカイロ放課後を過ぎても熱を発し続ける


なにひとつカッコつかないまま締めるネクタイなんでもなくなった僕


美しいつぎはぎになる明日君が笑えば今日の喧嘩も嘘も


海と地の裂目が叫ぶような波 水平線に限界を問う


押し花の様にあなたの一言を 記して閉じる大学ノート


夕暮れのジャングルジムでキスをした 全神経できみを捕らえた


お決まりのカップ持ち寄りお茶しよういつもの時間いつもの部屋で


靴音を響かせ歩く四季のない景色になじみすぎないために


新しい命が泣いて幾人の手に守られて瞳をひらく


懐かしいもどかしさだね一歩ずつ前ゆく君の影ふみ歩く


踊り場でばったり会ったその刹那気づいてしまう想いもあった


優しさに飼い殺されて泣く君はこの気持ちなど知らなくていい


純白のドレスに映る未来図に今ふりかかるバラの花びら


共有で成り立っていた思い出をこれからどこへしまったらいい?


始まりの合図はサクラ思い出と重なりながら走りだす春


これ以上きみを嫌いになりたくはないから同じ話をしよう


晴れきった真夏真夜中むきだしの宇宙を君と引っ掻きに行く


明らかな限界があり病室の水平線のような窓枠


唐突に無性に会いたくなる君と戻りたいのか進みたいのか


制服を放って街へ潜り込む週末だれも大切じゃない


裏づけのないしあわせをほら吹きが語って今日も不安な夜だ


仮定だけ並べて泣いていたいのに器用に証明する何もかも


食べかけのプリン真っ直ぐ落下するスプーン定まらない真夜中に


慎重に位置を確保し演じきれ蠢く自我を握り潰して


気まぐれに吹いたタンポポ綿帽子どうだっていい命のゆくえ


君の住む遠い異国の屋根みたい読んでは伏せる詩集の表紙


玉ねぎの匂いの染みた手のひらが見上げる頬を包んで笑う


虹色の路線図チープな憧れを轟音に乗せ東京メトロ


夕焼けにおされるままに手渡した手紙はガムと一緒に捨てて


パレットの上でひときわ鮮やかな赤をためらいなく濁す指


手のひらがその体温を知っていてお前のいない事にできない


不機嫌な男のそばで剥く林檎シャリシャリしゃしゃりでる不信感


すきま風みたいな君の口笛がコンクリートの夜をくすぐる


要するに酸素不足だ誰一人ほころばぬ春の満員電車


カーテンを閉めるよ帰るきっかけを今日はとことん締め出すつもり


あの人の愛用辞書で調べればどんな嘘でもつける気がする


バランスを崩してあげる随分と倒れ損ねて歩いてきたね


南風ゆれるプリーツスカートに許されている錯覚をする


レシートの裏に記した駅までの地図には君を誘うトラップ


あっけなく踏み外しもう酸素さえ不快で競うようにキスする


追いかけることも逃げ出すこともせず僕はこんなに待っているのに


会うたびに君は透明度を増して過去を遮るように微笑む


八十年使い古した口癖は僕がもらって生きていくから


フラスコに注ぐ夕焼け君の住む町と小指が化合していく


あの人の望むようには生きられぬ体をもてあまして目指す海


太陽のタトゥー誰にも晒さない肌に沈めてステージに立つ


かたくなに当たり障りのない会話続けた恋の終わる間際に


取れかけて初めて気付く数ミリの思いがけないボタンの個性


頬杖をつけば理想が膨らんで現状不満をあくびに込める


おかえりと迎えてくれているような地元なまりのローカルニュース


悲しみを湯せんにかけて泡立てるあなたを責めて泣けばよかった


押入れのカセットテープ若かりし父と母とが恋した昭和


手のひらに降ってしまった雪みたいあなたに言ってしまった言葉


迷いなく生きてゆけたらいいのにね西日が爪を立てて沈んだ


あなたへの抗議を込めたためいきにそれでも愛を含んでしまう


階段を力いっぱい駆け下りた振り払えないままの心で


とうさんにそっくりな爪かあさんとおなじ歯並び家出の夜も


人を人たらしめるため打ち鳴らす鐘が大気にめり込んでいく


東京の空気は音を帯びすぎて吸っても吸ってもうまく吐けない


幾数の深い苦労も喜びも白いシーツに還して眠る


もう何も求めないから約束をひとつぐらいは残していって


日常が遠のいたころふるさとへ向かう電車は山地を越える


宇宙まで広げてみても寂しさは君の形をはみ出さないの


仮面など持たないくせに縫い付けたリボンのようにヒリヒリ笑う


幽霊を信じてみたい砂浜でひとり影踏み足あといくつ


重要な制御装置のリモコンを君が容易く粉々にした


鉄フェンスごしに眺めた夕焼けとキリンと嘘のようなビル群


神様に求められてもいないのに命に添える言葉を探す


引き出しの奥には母のひらがなで書かれた名札つきのクレヨン


僕たちが待っていたのは夕立で夏から帰れなくなりたくて


伴奏を囲んで歌う教室の指紋だらけのグランドピアノ


ひかえめな乾杯ぼくの大胆な計画執行シグナルが鳴る


寝たふりをしているだけとわかるならおでこにひとつキスをください


君を待つ傘を持たない雨の日に予感も尽きて透き通る時




空想のなかで何度も飛び越えた袋小路で微笑んでいる


風のみち君のスカートふくらんでにわかに意識されている僕


とりとめもなく登る塔くりかえす螺旋階段とらわれていく


自転車を止めて話がしたいんだ次の信号渡らないでよ


目をあわすこともできずにお互いの近況なんか聞きあっている


まばたきのたびに途切れるあなたへの集中力を補う指輪


どんな顔してたのだろうあの時の会話を鏡の奥に浮かべる


鳥になるつもりで育ててきた羽の用途が未だ見つかりません


今日ろくなことなかったと言い笑う笑えてしまうから狂えない


覚えてる思い出せない懐かしい忘れちゃったよ記憶のかるた


まるで何もなかったような着信音なにも知らないような「もしもし」


マニキュアを塗り直しつつ将来の事などぽつりぽつりと語る


関係の改善はもうしたくない私は君の森になりたい


分別がつく寸前の混乱をあなたに触れて取り戻したの


なじみきる前にはっきりしておこう僕はそのうちいなくなります


見失いやすい年頃だれよりも健全に抱き合っていようよ


風のない闇に咆哮するように標的もなく打ち出す言葉


寝返りで逃す苛立ちざわざわと思考が闇に巻き込まれゆく


目薬とリップクリーム携えて今日潔く乗り切るために


呼吸ごと浴びて見上げるこの月をかつて見ていた死者の眼差し
by papiko-gokko | 2001-01-01 23:11 | 短歌まとめ
短歌501~600(2006年)
「おはよう」を自転車小屋で交わすため少し早めた登校時間


春風にひるがえる地図あしたから日常となる町にたたずむ


雨宿り止むまでじゃなく慣れるまで雨音に溶け走り出すまで


スカートに吹き込む春があの人にひらり告げ口毛糸のパンツ


幼少の頃から通う町医者は今も私をちゃん付けで呼ぶ


また咲いてしまったんだね散るたびに春を待つのが怖くなるのに


先生の声もノートを取る音もせせらぎと化す春の教室


離れたらほどけてしまう耳たぶに蝶々結びで繋いだ秘密


手を伸ばす伸ばした分だけ泣いている 届かないって知ってしまった


戦わぬ僕に犬歯のあることが悲しくて噛む冷えた指先


牛乳を君のぶんまで飲み干して何も無かったように片付く


疲れてる時ほど嘘がうまくなる僕ら弱さに敏感すぎて


会うたびに遠のく君に残したい伝言ももう見つからないよ


開けるべきドアも無いのにあちこちで鍵を拾ってしゃがんでしまう


寂しさがゼリーになって冴えながら震え続ける いっそ崩して


結んだら熱く溶かして繋げてよ離れる隙を与えないでよ


名前など知らないけれど野の草の遊び方なら全部知ってる


垂直に刺さる正論ひざまずくこともできずに冷め切っていく


遠くまで歩きすぎたの日暮れ土手とんぼがよそよそしく群れて飛ぶ


レントゲン写真のような真夜中のコンビニ君の透けた助手席


花びらがあなたの肩にとまったら零れかねない告白が在る


組み合って転がりましょう憎しみで使い果たした声を拾いに


道端で拾えばネジも空きビンもボタンも謎を呼ぶたからもの 


渡さない恋文ばかり書いている乙女の腕のプロミスリング 


眩しさをいくつも抜けて帰り着くひとりのために灯された部屋


妹が家族と別のシャンプーを使い始めて尖る浴室


忘れ物してきたような帰りみち振り返ったら真後ろに月


夕影に透ける曲線ほっぺたの産毛に触れて沈む口づけ


父さんの膝でつまんだ枝豆とビールの泡と野球中継


こだまする声の切れ端さよならの合図は曖昧すぎる約束


せめてもの抵抗として明日から君を苗字で呼ぶことにする 


憂鬱を誤魔化すだけの薄化粧もう長いこと拭かない鏡 


とおせんぼだらけの街で削られた空を忘れるために働く 


こぼれないしずくふるえるもう一度ぼくをきちんと叱って欲しい


新しいアイドル妹ゼロ歳にヤキモチという気持ち教わる


あくまでも弧を描く頬 垂直に涙を捨てて憎みたかった 


くちびるに刻み損ねた恋だからまた会おうって笑ってしまう


悲しみのままに凍てつく声たまに自分のために怒ってごらん


授業中辞書をめくっている君に見つけられたい言葉いくつか


飛びたがる君の背中はこわばって まばたきばかり空へ空へと


超高級オペラグラスを覗いたら僕の背中が見えてしまった


守るべき約束もなく雑踏のカフェで決意を迫られている


報告は欲しくなかった元気だとそれだけ知っていればよかった


竹薮をどんどん抜けてたどり着く川原まぶしく秘密めく夏


ふたりからひとりとひとりになる朝はキスではずみをつけて離れる


慎ましく老人手帳を提示する仕草この世に生きた年月


トランプを繰る無意識で日常に君の笑顔が混ざり始める


真実をむさぼる瞳覗き込むほど青ざめて透ける水晶 


乱暴にひっくり返すおもちゃ箱 思い通りになれ何もかも 


終章の見出しのようなネクタイを締めて本日君をもらいに


ため息の発芽をとめてふざけ合う仲じゃ足りないことに気づいて


解決の道は途絶えてばかりいて辞書を投げつけ割る窓硝子


予想していたような気も突然のような気もする あなたがいない


教室をうねる朗読ちかづいてふれてとおのく伊勢物語


終止符を打たないままで襟元に忘れ去られた待ち針がある


噛み殺すあくび滲んだ三日月に遠吠え放ち滑る終電


よく笑う気丈な祖母の仏壇を拝む背中は小さくまるく


愛さないための銀色窓枠の切り取る町をまた誰か去る


優しさに富んだ言い訳どうしても離れたくないふたりの部屋で


繰り返すキスも喧嘩も約束も朽ちて世紀の単位に埋まる


なりゆきで君と交わした一言が今日の日記の題名になる 


優しさにつられてついに滑り出す恋とまどいを共有してよ 


覚えたてらしき絵文字が不器用に微笑んでいる母の返信


刺すようにピントを合わす夜明けまえ静かに部屋を出て行く背中 


テレビから目を離せないふたり今 目をあわせたら崩れてしまう


今さらと言い合いながら告白が止まらなかった再会の夏 


私には無理だと気づく気づくたび大人になったような気になる 


取り返しつかないのにね誤解したままいられたらよかったのにね


路地裏の秋刀魚の匂い町じゅうに知ることのない日常がある


君だけが今夜現実境界をぼかす霧雨切り裂いてきて


解決は求めていない染めてみた髪にも借りてみた映画にも


眠れない夜のおしゃべり眠れずにいることをただ知ってほしくて


同じ日に覚えた歌を口ずさむそれぞれの日を束ねる和音


すれ違う刹那のしぐささえ僕の悩みを青く加速させてく


内側を照らす灯りが立ち並ぶ住宅街を横切るくしゃみ


剥げかけのマニキュア遊び飽きられたオモチャのような爪で引っ掻く


無関心くるんでもぐる地下鉄の車窓に透ける私と遊ぶ


連鎖する悲しみ今は原因じゃなくて気持ちを探してほしい


また僕は無闇に君を探しだすもう既視感にまみれた街で


思い出すことより忘れていくことが多くて見上げ続けるイチョウ


叱るでも許すでもなく俯いて僕の悪意を悲しいという


壊したら元に戻らぬ物ばかり増やしてしまう大切な部屋


舌打ちのような秒針からまわり続ける思考見逃してくれ


菓子パンをしゃべれないほどほおばって今日くじけないための堤防


かろやかに口ずさむ歌 笑われるまえに世界を笑いつくそう


もう雪になりたい雨がひたひたと濡らす線路へ傾くホーム


沈黙の理由のように丹念にレンズを拭き続ける 終わらせて


遠い遠い国の夜からさみしさが集まってくるような口笛


踏みしだく花びら咲いた季節などまるでなかったことにしましょう


ほっぺたをすりあわせたら悲しみもまるみをおびてころがりおちた


暗がりの舗装道路に叩きつけ捨てて逃げたい事情いくつか


膨らんで跳ねて広がる音域をふたり追いかけている連弾


いいこってあなたが褒めてくれてからいいこの意味がもうわからない


的確な言葉を知っている君に歌われたくて差し出す心


知るためじゃなくわからなくなるために最初で最後のケンカをしよう


台無しにしたいバランス君の手でもがく両手を封じて欲しい


反射するホワイトボード泣き言を力いっぱい殴り書きせよ


思い出すように待ちわびているように時間を揺らすゾウの足踏


君が僕を忘れた音を聞いた気がした北風をたたむマフラー
by papiko-gokko | 2001-01-01 23:08 | 短歌まとめ
短歌401~500(2005年~2006年)
コスモスは愛されなれた顔をして九月の風に撫でられている


ポケットに嘘を隠しているのなら私の両手を握り続けて


君だけを瞼に隠し眠る夜ぼくは世界の部外者である


明確な痛みをくれよ痛みから逃れるためにここを発つから


傷つけず逃げ続けるのこれ以上だれの痛みも背負わぬために


右腕に君の痛みを刻むから僕の卑怯を許して欲しい


針金で作った指輪あれはもう捨てたの君はふざけすぎたの


まっすぐに通り過ごしてしまいたい角を曲がって君とさよなら


君のこと忘れたことはないけどね思い出さない夜は増えたよ


君は今何色が好き?その色をたまに探して歩いてもいい?


被写体となって世界に張り付いて描かれる日を待っていたんだ


秋冷えの圧倒的な淋しさが君の不在をむき出しにする


会うたびに会いたいわけがふえるから待ち遠しさにひたされる道


昨日から誰とも仲良くない僕は天気予報ももう気にしない


編みこんだ決意に縛られ沈んでく彼らは夢を追いすぎたのさ


雨音をもてあましてる休日は君の口ぐせ集めて遊ぶ


思い出に閉じ込められてたまるかよ僕は貴方に今逢いたいよ


専用の湯のみがあっていつのまに私の居場所となっていた部屋


口元を歪めて闇を見せないで優しい人と信じ込ませて


自らの影より黒いカラスには明るいだろうどの風景も


町中が傾いていく夕暮れに君だけ探すオニになりたい


もうみんな遠くへいっちゃったんだってポストのあくびの向こうにも秋


地下鉄の蛍光灯が白すぎて正しい距離を掴めないのだ


眠るたび君がまぶたであわだって僕の記憶をあやふやにする


両腕を大きく振って遠ざかるあなたの気配袖に残して


泣き虫の僕の涙のぶん君の泣く分量が減ればいいのに


会うたびに遠のく君を閉じ込めて秒針をあび今に埋まろう


もう一度同じ合図で恋すれば一緒に壊れてしまえるのかな


靴紐を結ぼうとしてしゃがんだら立てなくなってひとりになった


一歩ごと切られ削られ痩せ細り形を変える東京の空


現実に一体何を期待して泣くのだろうか青く晴れた日


触れ合った肩と肩から広がった僕とあなたのもしもの世界


繋げない手をポケットに逃げ込ませあなたの斜め後ろを歩く


頬杖で見ていただけの時間ごと今手渡すよ「君が好きです」


観覧車ふたり卵の中にいて見下ろす街の時を横切る


ごめんねを繰り返すほど許しあうことから僕ら遠ざかってく


遊園地グラビア転職ダイエット 揺れて満員車内広告


あてはまる形になれはしないから笑われながら砂になりたい


木枯らしと月の光のフィルターが夜道に落とす君の面影


何気ないたった一度の「おかえり」が一日分の私を許す


さようなら風に気づいたシャボン玉 透ける破裂ははにかみに似て


心配はしていないけど気になるの君は私を今日も好きかな


コンビニの肉まん割って思い出す去年の君のマフラーの色


結婚をした友もいてふるさとの山は変わらずのびやかだろう


忍び込む君のコートのポケットはまるで秘密の陽だまりみたい


低気圧忍び寄る午後ぼくのこと苛めたヤツの名を海に記す


錯覚を重ねるうちに新しい君の本当つくっちゃったよ


少女ではなくなっていて女にはまだなれなくてパールのリップ


終わる日は悲しい嘘で泣かせてね嬉しい嘘で眠らせないで


夕焼けになりたかったの秋風に舞い落ちる葉の最後の緋色


明日君が笑っていても泣いてても逢えば恋しかできそうにない


生きている今日そのものを残酷な出来事にする君の視線が


贅沢に膨らんだ恋 僕のこと好きじゃなければ君が嫌いだ


あなたへの愛が幸せの邪魔をするあなたの指が決意を乱す


憎むことさえも許してくれないの かつて愛したその優しさが


逢えないと知っていたから逢いたいだなんて静かに言えたのしょう


衝動を抑えきれないこれ以上君を失うわけにいかない


あなたには何を言っても言い足りない想いが残る抱いてください


抱きしめておでこにひとつキスをして君は私を手放しました


牡丹雪きみに初めて触れた日のまばたきほどの重たさで降る


好きだって伝えてもっと好きになる僕らは恋を始め続ける


君は傘すぐ忘れるのそれでいて決まって雨の日にやってくる


不機嫌な僕でいようとしてたのに君が笑うとつられちゃうんだ


雨あがりポストの雫あの人の指先にまで届けばいいな


「同じこと前の彼女にも言われたよ」その女ともキスをしたのね


酔わなくていいようにして真っ直ぐに出会いなおせるように仕掛けて


不機嫌に君はあれこれ嫌うから僕がまるごと好きでいなくちゃ


うそつきは私か今日の青空か君に笑って逢うための朝


君の見る世界の重要人物になりたいために買った鉢植え


あなたから遠のく道を正しさと決めて走るよ幸せでいて


『雪だ!』って君のメールで飛び起きて曇りガラスをはしる手のひら


息を吸うリズムも忘れてしまうほど君の言葉は正しかったよ


表情と名前は与えてくれるなと命未満の泥雪だるま


元気?って君がきくから今日少し元気じゃないって気づいたじゃない


恋愛をしてみて気づく若い日の母と私の似ているところ


教えてね幸せならばでも少し苦労話も織り交ぜながら


件名が無題じゃないと君らしくないなぁ今日はどうしたのかな


甘すぎるプリンであったサヨナラの予感を声に切り替えるには


おやすみで途切れきれない真夜中の長風呂ネット深夜番組


また君に出会えるようなやわらかな風をみたんだつかのまの春


あの人にかけた呪文がとけてゆく春を待たずに散ったさざんか


暖房が効きすぎていて髪の毛に触れたらそのまま君を抱きそう


珍しく君より早く着きそうで戸惑っている各駅停車


北風とネオンと行き交う人の群れ核を求めて月を見つめる


里帰りしてる間はどっぷりと姉で娘で孫で飼い主


本当は一緒に食べるはずだったおにぎりはまだあったかかった


さよならを忘れはしないあといくつ春の嵐に追い越されても


幸せは漂っていてこの部屋で君が笑うと集まってくる


送らないメールを打ってやり過ごす告げぬ想いの暴れだす夜


仰ぎみる会えない君がいることで繋がっている空だと思う


前髪をふたつに裂いてのびる風やっとあなたに触れた告白


引き出しに眠る指輪がいつまでも君の変化を否定している


一歩ごと揺れては滲む三日月を独り占めして泣きたい今夜


桜より桃を好きだという君に恋をしたから春がふくらむ


世界から消えたい夜はパジャマなど順序正しく着てはいけない


思い出にさらわれそうで手紙には今日の出来事ばかりを綴る


少しずつ上手になったサヨウナラいつか失うあなたのために


たこ焼きとビールを買って帰ろうか君と並んで歩く日曜


放課後にお前の椅子を蹴り倒す鉄の匂いに沈む復讐


駆けおりる坂道きみは自転車でじゃあねってもう振り返らない
by papiko-gokko | 2001-01-01 23:04 | 短歌まとめ


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