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日記と短歌


by papiko

焦点を月に定めよ生ぬるい身体が夜へすべり込むとき


 会社を出てからひとつ曲がると、大きな月が浮かんでいた。「お月さま」と呼ぶにふさわしいまんまるの月で、秋の澄み切った空気のなか、街灯の光と見まごうほどに眩しく、くっきり照っていた。目を離すのがもったいなくて、そのまま月に焦点をあわせたまま、駅までの道をずっと歩いた。不思議な力に吸い寄せられているつもりになって、わざとずるずるゆらゆら歩いた。
 目に悪いから太陽をいつまでも見つめてはいられないけれど、その無念を晴らさんとばかりに、月夜の瞳は月光に惹きつけられる。光に焦点を合わせることは、祈ることに似ていて、心が静まる。空に現れるいろいろなもののなかで、月ほど、焦点を合わせやすいものはないなぁと、見つめ続けながら思った。
 ずっとずっと眺めているうちに、月が浮かんでいるものではなく、空にポカンと開いている穴のように見えてきた。プッチンプリンのおしりにあけるみたいな穴。その穴から、宇宙の光が漏れてきているような錯覚を起こした。宇宙が真っ暗闇というのは間違いで、実は私たちが「空」と思って見上げているのは地球を覆っている幕にすぎず、月と太陽と思い込んでいるのはその幕にあいた虫食い穴で、幕の外側にある宇宙は、実はどの国のどんな眩しい朝よりも、眩しい眩しい光で満ち満ちているのだ。
 地球が闇ではなく眩しさに囲まれて浮かんでいるのだとしたら、素敵な気もするけれど、なんとなく、絶望的な気分にもなる。宇宙より地球が暗いだなんて。地球の外側は暗くて、地球は太陽と月に照らされる青い星で、空は宇宙を映していて、そっちのほうが、やっぱりいいな。

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 筑摩書房から新装版で刊行されている「ちくま日本文学 全30巻」、ものすごく欲しい。図書館の奥のほうの棚にずらっと並んでいるような古くて太い文学全集は、小さな文字で行間も狭く、そのうえ二段組みだったりして、それはそれで味わい深いことは味わい深いけれど、やはりどうしても読みづらい。内容を掴むより先に、一ページ中に並ぶ文字の小ささと多さに負けてしまうこともしばしばだ。その点、このちくま日本文学は素晴らしい。文庫サイズだから場所をとらないし、字の大きさも行間もほどよい按配で、それに注釈が同じページ内に載っているので、イチイチページをパタバタ行ったり来たりせずに読み進められる。収録されている作品も、長すぎず読みやすいものが多いように思う。
 欲しい全部欲しいと夫に訴えたら、結婚式が終わってからにしなさいと、冷静に諭された。確かに、今こんなものを買っていいときではないな。せっかくこれまで結婚式のために貯めてきたお金、ここで使っちゃダメだ。もう少しの辛抱。一瞬、そうだお正月にお年玉もらったらそのお年玉で買おう!と閃いたが、私はもう、二十五歳の既婚者なんだった。むしろあげるほうなんだった。今は図書館で我慢して、全30巻が出そろったら、夫の勤める書店で特別に注文してもらうことを約束。欲しい、欲しい。図書館で借りても、敢えて全ての話を読んでしまわずに、全部ちょっとずつ読まずにおこう。
by papiko-gokko | 2008-11-13 23:56 | Diary